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ひとりでMA運用を任されたとき、設定変更の影響範囲を確認する手順

前任者が組んだMarketoやHubSpotをひとりで引き継ぐと、最初にぶつかるのは「このスマートリスト、条件を直したいけれど、触ったら何が起きるのか分からない」という壁です。誰かに聞くこともできず、かといって放置すれば古い条件のまま配信が続く。結局、怖くて何も変えられないまま数か月が過ぎる、というのがよくある流れです。

この状態を抜けるために必要なのは、MAの深い知識よりも、変更前に影響範囲を調べる決まった手順です。手順さえ持っていれば、ひとりでも根拠を持って変更の判断ができます。この記事では、その手順を画面単位で説明します。

なぜMAの設定変更は影響範囲が読みにくいのか

MAツールの設定は、ひとつの部品が複数の場所から参照される構造になっています。たとえばMarketoでは、ひとつのスマートリストがスマートキャンペーン、レポート、セグメンテーションなど複数の場所から使われます。リストの条件をひとつ変えると、それを参照しているすべての処理の対象者が同時に変わります。

もうひとつの理由は、本番環境しかないことです。テスト用のサンドボックスは、HubSpotではEnterprise限定、Marketoでは有償の別インスタンスで、多くの契約には含まれていません。変更はそのまま本番に反映されるため、検証環境で試してから本番へ、というシステム開発なら当たり前の流れが取れません。変更前の調査がそのまま安全確認の役割を担うことになります。

つまり、影響範囲が読みにくいのはツールの構造上の性質であって、担当者の知識不足ではありません。だからこそ、調べる手順を型として持つことに意味があります。

変更前に確認する5つの手順

手順1:変更対象がどこから参照されているかを洗い出す

最初にやるのは、変更しようとしている部品の参照元の確認です。

Marketoの場合、スマートリストや静的リストを開くと「使用場所(Used By)」タブがあります。ここに、そのリストを参照しているスマートキャンペーンやアセットが一覧で表示されます。メール、フォーム、ランディングページも同様に、アセットを選択すると参照元を確認できます。まずこの一覧をすべて開き、稼働中のものがあるかを見ます。

HubSpotの場合、リスト(現行ではセグメントと呼ばれます)の詳細画面に「使用箇所」タブがあり、そのリストを参照しているワークフローや他のセグメントなどのツールが表示されます。プロパティを変更したい場合は、設定のプロパティ一覧から対象を開くと、どこで使われているかを確認できます。ワークフロー側から見る場合は、ワークフローエディターの「接続」タブで、そのワークフローが使っているアセットと参照元を双方向に確認できます。

気をつけたいのは、画面上の参照一覧が網羅するのはツール内部のアセット参照だけだということです。REST APIを経由した外部ツールからの参照や、CRM連携の同期条件は、この一覧には表示されません。SalesforceなどのCRMと連携している環境では、変更対象のフィールドが同期対象になっていないかを別途確認してください。

手順2:いま動いている自動処理を把握する

参照元が分かったら、次はその中でいま動いているものを特定します。止まっているキャンペーンからの参照と、稼働中のトリガーからの参照では、変更のリスクがまったく違うからです。

Marketoでは、マーケティング活動の各プログラムを開き、アクティブになっているトリガーキャンペーンを確認します。インスタンス全体のスマートキャンペーンを横断して一覧できるキャンペーンインスペクターという機能もあります。初期状態では無効ですが管理者メニューから有効化できるので、引き継ぎ直後の全体把握には先に有効化しておくと役立ちます。トリガーキャンペーンは条件に合致した瞬間に動くため、変更対象がトリガーの条件に含まれている場合は特に慎重に扱います。

HubSpotでは、ワークフロー一覧でオンの状態のものに絞り込み、変更対象のリストやプロパティを登録トリガーに使っているワークフローがないかを見ます。登録トリガーに使われている場合、条件を変えた瞬間から新しい条件で登録が始まります。

手順3:変更履歴で直近の動きを確認する

自分が把握していない変更が直前に入っていないか、履歴を見ます。ひとり運用では見落としがちですが、前任者が退職直前に触った設定や、外部の支援会社が加えた変更が残っていることがあります。

Marketoでは、管理者メニューの監査証跡で、誰がいつ何を変更したかを確認できます。変更しようとしている対象の名前で絞り込み、直近数か月の動きを見ておくと、その設定がなぜ今の形になっているのかを知る手がかりになります。

HubSpotでは、ワークフローの「変更履歴」やコンタクトのプロパティ履歴から、同様の確認ができます。ワークフローの変更履歴は確認だけでなく、過去のバージョンへの復元にも使えます(後述)。

手順4:変更がいつ反映されるかを区別する

影響範囲と同じくらい重要なのが、影響が出るタイミングです。同じ変更でも、反映のされ方は参照元の種類によって異なります。

即時に反映されるのは、スマートリストの条件変更です。参照している側は常に最新の条件でリストを評価するため、保存した瞬間から対象者が変わります。トリガーキャンペーンの条件変更も、次にトリガーが発火した時点から新しい条件で動きます。

一方、バッチ型のキャンペーンは次回のスケジュール実行時に反映されます。実行タイミングまでに時間があるなら、その間に検証や記録ができます。

見落としやすいのが、待機ステップの途中にいるリードの扱いです。Marketoでは、待機中のリードは、まだ到達していないステップについては到達した時点の内容を実行します。つまり先のステップの中身を直しておけば、待機明けのリードには修正後の処理が適用されます。ただし落とし穴が2つあります。1つは、待機時間そのものの変更はすでに待機中のリードには適用されないこと。5日を7日に延ばしても、待機中の人は5日で進みます。もう1つは、待機ステップより上にステップを追加・削除すると、リードが紐づいているステップ番号がずれ、待機をもう一周する、ステップを飛ばすといった想定外の動きが起きることです。フローの変更前に、対象キャンペーンの結果画面で待機中のリードがいないかを必ず確認してください。

手順5:変更内容を記録してから実行する

調査が終わったら、実行の前に記録を残します。最低限、変更前の設定のスクリーンショット、変更日時、変更内容、変更理由、想定される影響の5点があれば足ります。1件あたり数分の作業です。

これが重要なのは、MAツールの設定変更は基本的に手動でしか元に戻せないからです。例外的にHubSpotのワークフローは変更履歴から過去バージョンに復元できますが、Marketoにはそうした機能がなく、HubSpotでもワークフロー以外の設定は戻せません。変更前の状態が記録されていなければ、元の状態そのものが分からなくなり、復旧のしようがありません。ひとり運用では、この記録が唯一のバックアップであり、未来の自分への引き継ぎ資料でもあります。

変更していいか迷ったときの判断基準

手順を踏んでもなお判断に迷う場合は、次の基準で考えます。

参照元が多い、または稼働中のトリガーから参照されている場合は、既存の設定を直接変更するのではなく、複製して新しい方を作り、動作を確認してから参照を差し替える方法が安全です。直接変更と違って、問題があれば参照を戻すだけで済みます。ただしMarketoでプログラム単位の複製をした場合、スマートリストやフローの参照先が複製元のまま残ることがあるため、複製後は参照先の確認が必須です。

メール配信に直結する設定は、変更のタイミングを配信予定のない時間帯に寄せます。仮に想定外の挙動があっても、次の配信までに気づける余地を作るためです。

一旦止めて様子を見るという選択は、実は安全策になりません。キャンペーンやワークフローを非アクティブ化すること自体がひとつの変更であり、その間に本来処理されるはずだったリードが素通りします。止めるかどうかも、動かすかどうかと同じ重さで判断してください。

ひとり運用を続けるための最低限のルール

手順4までを毎回やるのは負担に見えるかもしれませんが、慣れれば1件あたり15分程度です。誤配信が起きた後の対応と比べれば、確実に安い投資です。

これに加えて、月に一度、主要なリストとキャンペーンの使用場所を見直す時間を取ることをすすめます。参照されなくなった古いアセットを特定してアーカイブしていくと、次に何かを変更するときの調査対象そのものが減ります。影響範囲の確認が大変なのは、多くの場合、使われていない設定が大量に残っているからです。

自社の環境でどの設定がどこから参照されているのか、一度全体を棚卸ししたい場合は、現在の設定の依存関係を可視化する診断から始めるのが近道です。ひとりで全体像を描くのが難しいと感じたら、外部の目を入れて現状のマップを作ることを検討してみてください。

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