B2Bの購買において、売り手と買い手の関係性の変化は続いています。
その背景には、「労働人口の減少による、買い手側のリソース制約」「購買担当者の情報収集行動の高度化・非対面化」「意思決定プロセスの厳格化と複雑化」があるとされ、これまで営業が顧客をリードするスタイルで成果を出しにくくなっていることは、皆様お感じだと思います。
では、実際にB2B購買者の行動はどう変わっているのでしょうか。アメリカの調査会社6senseが発表したレポート「2024 B2B Buyer Experience Report」では、独自の調査によりB2B取引の現実をデータで明らかにしています。
本記事では、そのなかからアジア太平洋地域(APAC)の購買者に焦点を当て、特に注目すべき5つの購買トレンドをご紹介します。
買い手は7割終えてから営業に接触
まず最初の注目データは、B2Bの買い手は購買サイクル全体の72.4%を終えた段階で、初めて営業と接触するというものです。

これは営業が顧客と接点を持つ頃には、すでに買い手の中で十分な情報収集が行われ、意思決定の大部分が営業の見えないところで進んでいることを示しています。
早い段階で提案し要件を共に作っていく、RFP作成から伴走するこれまでのスタイルは成立しづらくなっており、営業が関与できるのは比較・選定の最終局面に限られるケースが増えています。売り手としては、買い手がどの段階まで進んでいるのか、営業が介在できる余地はどこにあるのかという時間差を理解することが重要となります。
きっかけは買い手が握っている
次のデータは、最初の接点が買い手主導であるケースが77.7%にのぼるというものです。逆に、売り手側からアプローチに反応したケースは22.3%にすぎません。

この数字はB2B購買において、売り手がきっかけをつくるのは難しく、買い手が必要と感じたタイミングで売り手にアクセスする構図となっていることを意味しています。
購買プロセスの主導権は買い手が握っており、売り手がコントロールするのは非常に困難と理解したうえで、買い手が自ら動きたくなる関係性や接点を、どれだけ構築できるかが重要になります。売り手は、買い手を動かそうとするのではなく、選ばれるための準備に活動の重点を置くことが必要となっています。
問い合わせ時に要件は決まっている
さらに注目すべきデータとして、初回接触後に中規模以上の要件変更があったケースは18%にとどまり、82%の案件では要件にほとんど変更がなかったという結果が示されています。

買い手が問い合わせをしてきた時点では、何が必要か、どのような条件が望ましいかの購買要件がほぼ固まっており、買うもの自体もほぼ決められている状態だということを意味しています。
売り手が提案の中で要件を引き出し、方向性を共に設計する共創型のアプローチが、通用しにくくなっています。むしろその場での提案力よりも、あらかじめ想定される要件に対して的確に答えられるかどうかが重視されています。たとえ高い専門性を持っていても、購買プロセスをあとからガイドする余地は限られているのが現実です。
勝ち負けも既に決まっている
さらに売り手にとって都合が悪いことに、最終的に選ばれたのベンダーの82.3%が、最初に接触したベンダーだったという結果が報告されています。逆に言えば、あとから接触したベンダーが選ばれる可能性は、わずか17.6%しかありません。

このデータは、実質的には第一想起・第一接点がそのまま勝者を決めてしまっている現実を意味しています。
良い提案をすれば逆転できる、提案力で勝負というような出会ってから競う発想は通用しなくなっており、出会う前に選ばれているという前提を直視することが必要です。買い手主導で進む購買サイクルの中で、信頼に足る存在として早期に認識されることが重要です。
早売りすると、むしろ逆効果
そして最後にご紹介するのは、買わなかったベンダーの初回接触のタイミングが購買サイクルの68.9%時点なのに対し、買ったベンダーは73.4%時点だったというデータです。

わずかな差ではありますが営業が早すぎる段階でアプローチした場合、むしろ選ばれない傾向になることを示しています。
これまでのよっつのデータをもとにすると、早くアプローチすれば有利になると考えがちです。しかし買い手のタイミングを見極めないアプローチは、売り込みや押し売りとしてネガティブになってしまいます。売り手には、買い手が話す準備ができたタイミングに適切に応じる力が求められています。
まとめ
本記事では6senseが発表した「2024 B2B Buyer Experience Report」より、アジア太平洋地域(APAC)のB2B購買者の行動変化を示す5つのデータを紹介しました。
これらのデータは、営業の見えないところで意思決定が進んでいる現実を示しています。
- 購買サイクルの7割を終えてから営業に接触する
- 最初の接点は、ほとんどが買い手からの能動的な問い合わせ
- 問い合わせ時点で要件はほぼ固まっている
- 最初に接点を持ったベンダーが、最終的に選ばれる
- 早すぎるアプローチは逆効果になる
これらの傾向を踏まえると、売り手は出会ってから売るのではなく、出会う前から買い手の選択肢として存在することが重要となります。
そのために営業とマーケティングが分断されるのではなく、顧客の購買プロセス全体を見据えた接点設計が必要となります。情報収集や意思形成に自然に寄り添い、信頼を育む準備が、B2B購買の結果を左右する要素になっていくはずです。
出展・調査概要
出典:2024 B2B Buyer Experience Report – 6sense
調査主体:6sense Research
対象者数:全体で2,509名のB2B購買者(うちAPAC地域:32.8% 推定823名)
調査条件:過去24ヶ月以内に$10,000以上の購買経験があること、平均的な購入金額は$200,001〜$400,000
業種構成(APAC):IT・ソフトウェア:32.6%、専門サービス:20.2%、製造業:18.0%、金融サービス:15.5%、ビジネスサービス:13.8%
役職構成(APAC):マネージャー以上が95.8%(マネージャー:26.7%、ディレクター:17.0%、VP以上:52.2%、一般職:4.2%)
※本記事では、APAC地域の調査結果に焦点を当てて再構成しています。
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